ジェンダー平等へのステップ:柔軟な働き方を推進する企業の取り組みと効果
日本における働き方の現状とジェンダー格差
日本の労働市場においては、依然として長時間労働の慣行や、育児・介護といったライフイベントによるキャリアの中断といった課題が存在します。特に女性は、出産や育児を機に離職したり、非正規雇用を選択したりするケースが多く見られます。これは、個人の選択であると同時に、働き方の選択肢が限られていることや、固定的性別役割分業意識といった社会的な要因も影響しています。このような状況は、個人のキャリア形成を妨げるだけでなく、企業や社会全体の多様性や生産性の向上をも阻害する要因となっています。
柔軟な働き方がもたらす変化
こうした課題への対応策の一つとして注目されているのが、「柔軟な働き方」の推進です。柔軟な働き方とは、時間や場所にとらわれない多様な働き方の総称であり、代表的なものにリモートワーク(テレワーク)、フレックスタイム制、短時間勤務制度、ワーケーションなどがあります。
これらの働き方がジェンダー平等に貢献するメカニズムはいくつか考えられます。
- 時間的・場所的制約の軽減: リモートワークやフレックスタイム制の導入により、通勤時間の削減や働く時間の自由度が増します。これにより、育児や介護といったケア責任を担う人々(現状では女性が多くを占めますが、男性も含みます)が、仕事とケアの両立を図りやすくなります。結果として、キャリアを継続できる可能性が高まります。
- 生産性の向上: 柔軟な働き方は、一人ひとりが最も集中できる環境や時間で働くことを可能にし、生産性の向上につながり得ます。これは、長時間労働に頼らずとも成果を出せる働き方を促し、時間で評価されがちだった従来の働き方から、成果や貢献度で評価する文化への変革を後押しする可能性を秘めています。
- 多様な人材の活躍促進: 居住地や身体的な制約などにかかわらず、多様な人材が活躍できる機会を創出します。これにより、女性だけでなく、様々な背景を持つ人々がその能力を最大限に発揮できる職場環境の実現に貢献します。
具体的な企業の取り組み事例
柔軟な働き方を推進し、ジェンダー平等に寄与しようとする企業は増加しています。具体的な取り組みは多岐にわたります。
- リモートワーク制度の恒久化と環境整備: COVID-19パンデミックを機に導入が進んだリモートワークを、恒久的な制度として位置づけ、自宅だけでなくサテライトオフィスやシェアオフィスなど、多様な働く場所を提供する企業があります。同時に、オンライン会議システムやチャットツールといったコミュニケーション基盤を整備し、リモート環境下でも円滑な情報共有や連携が可能な環境を整えています。また、リモートワーク手当の支給や、自宅の作業環境整備への補助を行う企業も見られます。
- フルフレックスタイム制の導入: コアタイム(必ず勤務していなければならない時間帯)を設けないスーパーフレックスタイム制を導入し、社員が日々の始業・終業時間を大幅に自由に決定できるようにする企業が増えています。これにより、各自のライフスタイルや業務内容に合わせて柔軟に働くことが可能になり、育児の送迎や通院、自己啓発などの時間を確保しやすくなります。
- マネジメント層への働き方改革研修: 柔軟な働き方を成功させるためには、制度だけでなく、それを運用する管理職の理解とスキルが不可欠です。部下の働き方や成果を適切に評価する方法、リモート環境下での効果的なコミュニケーション、さらには「アンコンシャスバイアス」(無意識の偏見)に気づき、多様な働き方を公平に扱うための研修を実施する企業があります。例えば、「リモートで働いている社員は成果を出しにくい」といった無意識の偏見が、評価に影響を与えないよう、管理職の意識改革を図っています。
- 「働く場所」と「働く時間」の選択肢拡大: 国内外の好きな場所で一定期間働くことができるワーケーション制度や、子どもの看護や家族の介護のための休暇・短時間勤務制度を法定基準以上に拡充する企業など、個々の事情に応じた多様な働き方の選択肢を提供する取り組みも進んでいます。
取り組みの効果と課題、そして今後の展望
柔軟な働き方の推進は、従業員のエンゲージメントや満足度の向上、離職率の低下といった効果をもたらすことが多くの調査で示されています。また、採用活動において、多様な人材へのアピールポイントとなり、企業イメージの向上にもつながります。ジェンダー平等の観点からは、女性の就業継続率や管理職比率の向上、男性の育児・家事への参画時間増加といったポジティブな変化が期待されます。
しかし、課題も存在します。リモートワーク下での従業員の適切な評価方法、部署内や部署間でのコミュニケーション不足、インフォーマルな情報交換の機会減少などが挙げられます。また、制度があっても、職場の雰囲気や上司の理解不足により、実際に制度を利用しにくい、あるいは利用すると評価に響くのではないかといった懸念から、利用が進まないケースも見られます。これは、制度導入と同時に組織文化の醸成が不可欠であることを示しています。
今後の展望としては、柔軟な働き方が一部の職種や企業に限定されるのではなく、より普遍的な働き方の一つとして定着していくことが期待されます。そのためには、技術的なサポートはもちろんのこと、働く個人、マネジメント層、そして企業全体が意識を変革し、互いを尊重し、多様な働き方を認め合う文化を育むことが重要となります。
柔軟な働き方は、単なる「楽な働き方」ではなく、個々人がその能力を最大限に発揮し、仕事と私生活の調和を図りながら、より創造的で生産的に働くための手段です。そして、それはジェンダー平等をはじめとする多様性を包摂する社会の実現に向けた、重要な一歩であると言えるでしょう。企業がこれらの取り組みをさらに推進し、個人が自身のキャリアと働き方を積極的に選択していくことで、平等へのステップは確実に前進していくと考えられます。